「障害者権利条約・国連作業部会草案に関する意見書」

2004年4月28日

外務大臣
川 口  順 子  様

日本障害フォーラム(JDF)準備会
代表  兒 玉   明
(団体印略)

障害者権利条約・国連作業部会草案に関する意見書

 貴職におかれましては、国際的な人権の確立、とりわけ障害者権利条約の策定過程に積極的に参画しておられることに敬意を表します。
 さて、標記の作業部会草案(以下、草案と略)が1月に採択されてから早くも3ヶ月が経ちましたが、5月の国連特別委員会に向けて、政府内でも意見のとりまとめを進めておられるものと思います。私たちは、貴省を中心に政府が一体となって障害者権利条約に向けて関与していることに対して、その積極性を大いに評価をする一方で、既存の障害者施策の問題点をおざなりにさせることがないように、政府とNGOとのパートナーシップを強めていく必要も感じています。
 特別委員会では、標記の草案をたたき台に条約交渉を進めると聞き及んでおります。
JDF準備会としても、この草案の各条文に対する意見書を提出すべく準備を進めております。日本政府におかれましても、日本の障害者団体の主張を十分に酌んだ意見提起を特別委員会で展開していただきたいと願っております。
 以下に、現時点におけるJDF準備会としての意見書をまとめました。
貴省のみならず各省庁におかれましても私たちの意見を共有し、意見提起に反映されるよう強く要望いたします。

◆意見1 障害、差別の定義(草案第2条、3条、7条、9条)
 作業部会では「障害」の定義を含めるべきか否かという点で議論が分かれたが、以下では、「障害の定義」を議論する場合に最低限留意しなければならない諸点を挙げておきたい。

A)まず、作業部会において、「障害」(ディスアビリティ)の定義は、「障害の医学モデル」ではなく「障害の社会モデル」に基づくべきであるとのコンセンサスが得られたこと(草案注12参照)は決定的に重要であり、この点を議論の前提としなければならない。
ただし、「社会モデル」に基づき、「障害(ディスアビリティ)」の定義の中に、個人のインペアメントに加え社会的障壁の要素も含める場合には、「障害の定義」と「障害のある人の定義」と「障害に基づく差別の定義」とが、内容面において重複する帰結になることに留意すべきである。
【草案注12】
作業部会の多くの構成員は、条約が障害(すなわち、すべての種別の障害)のあるすべての人の権利を保護すべきであることを強調して、「障害」という語は広く定義されるべきであると提案した。構成員の中には、障害の複雑性や条約の範囲を制限する危険性を考慮すれば、この条約には「障害」の定義を含めるべきでないとの見解を表明した者もいる。他の代表の中には、国際的文脈で用いられている既存の定義(世界保健機関の国際生活機能分類を含む。)を指摘した者もいる。定義が含まれる場合には、障害の医学モデルでなく、障害の社会モデルを反映する定義とすべきであることに一般的な合意が得られた。

B)他方、現実にあるインペアメントのみを「障害(ディスアビリティ)」と定義すると、「社会モデル」の視点が欠落する帰結となる。さらに、かかる定義においては、「ユニークフェイス」(顔面に疾患・外傷のある人でつくるセルフヘルプグループ)の人やAIDSを発症していないHIVポジティブの人、過去に障害の経歴があった人などが排除される。よって、現実にあるインペアメントを障害(ディスアビリティ)と定義する場合であっても、「ユニークフェイス」の人などが、本条約の適用範囲から抜け落ちないようにしなければならない。そのためには、「社会モデル」の視点を取り入れて、「障害」、「障害のある人」、「障害に基づく差別」の定義のいずれかの中に「みなし規定」等を入れることが必要である(米国障害者法、草案7条2項(b)等参照)。
【ADA(米国障害者法)】
「『障害(ディスアビリティ)』とは、個人に関して、次のことをいう。
(A)当該個人の一つ以上の主たる生活活動を実質的に制約する身体的若しくは精神的な機能障害(インペアメント)、
(B)当該機能障害の経歴、又は
(C)当該機能障害を持つと見なされる状態」。
【草案第7条2項(b)】
「差別は、あらゆる形態の差別(直接的、間接的及び体系的な差別を含む。)を含むものとし、また、現実にある障害又は認識された障害を理由とする差別を含むものとする。」

C)以上のことから、「障害」の定義について議論を進めるに当たっては、(1)社会モデルの視点を十分に念頭に置くこと、(2)障害という用語を広く定義すること、(3)現実にあるインペアメントに限定されないことについて十分注意しなければならない。
また、「障害」、「障害差別」、「障害のある人」のそれぞれの定義の相互関連性・整合性という点にも十分留意すべきである。

D)草案第7条3項では、一般的な形で差別の正当化事由を規定している。同規定は、差別を禁止し、権利を保障することを目的とした条約自体を骨抜きにする恐れがあり、同規定がなくとも特に支障はないという判断により、同規定は本条に含めるべきではないと考える。
【草案第7条3項】
「差別は、正当な目的により、かつ、その目的を達成する手段が合理的かつ必要である場合には、締約国が客観的かつ明白に十分な根拠を示す規定、基準又は慣行を含まない」

E)草案第7条4項では「(略)合理的配慮を提供するためのすべての適当な措置(立法措置を含む。)」と規定しながら、「不釣合いな負担を課す場合には、この限りでない。」としているために、障害のある人に対する結果としての不利益、差別的取扱いが放置されることにつながる恐れがある。関係主体が「不釣合いな負担」に適切に対応できない場合には、不釣合いな負担を証明する説明責任があることを明記すべきである。説明責任を果たすことを含む「合理的配慮を提供する」ことの欠如が明らかである事案については、差別の定義に該当することを明記する必要がある。
【草案第7条4項】
「締約国は、平等についての障害のある人の権利を確保するため、障害のある人がすべての人権及び基本的自由を平等な立場で享有し及び行使することを保障するための必要かつ適当な変更及び調整と定義される合理的配慮を提供するためのすべての適当な措置(立法措置を含む。)をとることを約束する。ただし、このような措置が不釣合いな負担を課す場合には、この限りでない。」

◆意見2 合理的配慮(草案第3条、7条、17条、22条)

A)「合理的配慮reasonable accommodation」は、6大人権条約に見られない概念であるが、米国障害者法(1990年)やEU平等取扱い指令(2000年)などに見られるように、障害者法体系に必須のものとして国際社会で広く受け入れられつつある。したがって、「合理的配慮」は本条約に明確に規定されることが不可欠であると考えられる。

B)「合理的配慮」という用語は、作業部会草案の実体規定においては、第3条(定義)、第7条(平等及び非差別)、第17条(教育)、第22条(雇用)で明記されている。少なくとも、これら4つの条文で明記された「合理的配慮」という文言自体は削除されるべきでない。さらに、これらの条文に加えて、草案第4条(本条約に定めるすべての権利に適用される一般的義務規定)及びその他の条文においても、「合理的配慮」を明示的に言及する余地は十分ある。
【草案第7条4項】
「締約国は、平等についての障害のある人の権利を確保するため、障害のある人がすべての人権及び基本的自由を平等な立場で享有し及び行使することを保障するための必要かつ適当な変更及び調整と定義される合理的配慮 を提供するためのすべての適当な措置(立法措置を含む。)をとることを約束する。ただし、このような措置が不釣合いな負担を課す場合には、この限りでない。」
【草案第17条2項(b)】
「必要とされる支援(教員…中略…又は障害のある生徒・学生の完全な参加を確保するための他の合理的配慮を含む。)を提供すること。」
【草案第22条(e)】
「職場及び労働環境における障害のある人の合理的配慮を確保すること。」

C)「合理的配慮」の定義は、草案第7条4項に置かれているが、ここで定義されている理由は必ずしも明らかではない。各種定義を包括的に列記している草案第3条において「合理的配慮」を定義することが適当であると考えられる。

D)「合理的配慮」の否定が障害差別であることを、とりわけ草案第3条(合理的配慮及び障害差別の定義)及び第7条2項(差別の定義)において明記すべきである。

E)「合理的配慮」の否定が公的分野か私的分野かを問わず障害差別であることを認めて、「合理的配慮」を提供するための締約国の義務が公的分野と私的分野の双方に及ぶことを条文中に明記すべきである。

◆意見3 強制医療、身体拘束、施設収容(草案第10条、11条、12条、15条、21条)

A)草案第10条1項は、そのまま維持すべきである。他方、同条2項は、障害のある人が
自由を奪われてもやむを得ないという認識と誤解を招く虞があるため、一旦削除し、自由権規約第9条を障害者特有のニーズを十分に考慮した条文として抜本的に修正した上で、新たに設けるべきである。この場合は言うまでもなく、既存の国際人権基準を下回るような規定とならないことに十分留意しなければならない。
【草案第10条1項、2項】
1. 締約国は、次のことを確保する。
(a) 障害のある人が、障害を理由とする差別なしに、身体の自由及び安全についての権利を享有すること。
(b) 障害のある人がその自由を違法に又は恣意的に奪われないこと並びにあらゆる自由が法律で定めることなしに奪われず、かつ、いかなる場合にも障害を理由として奪われないこと。
2. 締約国は、障害のある人が自由を奪われた場合には、次のことを確保する。
(a) 人道的にかつ人間の固有の尊厳を尊重して、及び障害に基づくニーズを考慮して、障害のある人を取り扱うこと。
(b) 自由の剥奪の理由に関する十分な情報を利用可能な形態で障害のある人に提供すること。
(c) 次のことのための法的その他の適当な支援の速やかな利用を障害のある人に提供すること。
(i) 自由の剥奪の合法性を裁判所その他の権限のある独立のかつ公平な機関において争うこと(この場合には、その者は、いかなるこのような訴えについても、速やかな決定を受けるものとする。)。
(ii) 自由の剥奪について定期的な審査を求めること。

B)草案第11条(拷問等からの自由)2項においては、「医学的又は科学的実験」及び「強制的介入又は強制的施設収容」の禁止義務規定と、それからの障害者の保護義務規定とは維持すべきである。
【草案第11条2項】
「特に、締約国は、障害のある人が十分な説明に基づくその自由な同意なしに医学的又は科学的実験を受けることを禁止し、かつ、当該実験から障害のある人を保護するものとし、また、いかなる実際上又は認知上の機能障害をも矯正し、改善し又は緩和することを目的とする強制的介入又は強制的施設収容から障害のある人を保護する。」

C)草案第12条(暴力等からの自由)2項においては、「強制的介入又は強制的施設収容」の禁止義務規定と、それからの障害者の保護義務規定とは維持すべきである。
【草案第12条2項】
「このような措置は、いかなる実際上又は認知上の機能障害をも矯正し、改善し又は緩和することを目的とする強制的介入又は強制的施設収容並びに拉致を禁止し、かつ、これらから障害のある人を保護しなければならない。」

D)草案15条(自立した生活とインクルージョン)(b)においては、「障害のある人が、施設への収容及び特定の生活様式を義務づけられないことを確保する」ための適当かつ効果的な措置をとる義務規定は維持すべきである。
【草案第15条(b)】
「障害のある人が、施設への収容及び特定の生活形式を義務づけられないことを確保すること。」

E)「希望に基づかない医療及び医療関連の介入及び矯正手術が障害のある人に矯正されることを防止する」(草案第21条(k))については、「防止する」という文言を「禁止しかつ防止する」に修正すべきである。

F)上記の締約国の義務が公的分野と私的分野の双方に及ぶことを各条文中に明記すべきである。または、そのような解釈が明確であるような義務規定の仕方を検討すべきである。


 

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最終更新日2004.7.7