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2015年3月10日 (火)

「マラケシュ条約」批准と「読書バリアフリー法」制定を目指して

2013年6月、国連の専門機関である世界知的所有権機関において「盲人、視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者が発行された著作物を利用する機会を促進するためのマラケシュ条約(仮称)」が採択されました。私たちは、日本盲人会連合、弱視者問題研究会とともに、マラケシュ条約批准と著作権法改正、そして読書バリアフリー法の制定を求めています。以下、声明文。
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「マラケシュ条約」批准と「読書バリアフリー法」制定を目指して
1.はじめに
  国連の専門機関である世界知的所有権機関は2013年6月、モロッコのマラケシュで「盲人、視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者が発行された著作物を利用する機会を促進するためのマラケシュ条約(仮称)」(以下、「マラケシュ条約」とする。)を採択した。
2015年2月現在、6か国が批准しており、日本も締結を目指し、既に文化庁では著作権法改正が審議されている。マラケシュ条約の目的は「発行された著作物を利用する機会を促進する」、つまり障害があっても多くの本を読めるようにすることである。対象となる著作物は、書籍や雑誌等の文字情報であり、受益者は視覚障害者、文字の読み書きに困難のある学習障害者、寝たきりや手が不自由な身体障害者等である。条約を締結するには、著作権法で著作権の制限や例外規定を設けることと海外の締約国とアクセシブルな図書データの輸出入を可能にすることが必要である。
 私たちはマラケシュ条約を批准する際に、著作権法改正と「読書バリアフリー法(仮称)」の制定を求めている。著作権法については、マラケシュ条約の受益者を第37条第3項の権利制限対象者に加えるだけでなく、アクセシブルな図書を増やしていくために著作権法施行令により複製が認められているものの規制緩和や権利制限対象者への公衆送信の法定化も求めている。
 「読書バリアフリー法」では、読書障害者も健常者と同じように自由に本を買ったり、借りたりできるようにするための環境整備を求めたい。具体的な課題は以下の通りである。
2.読書障害者とは?
印刷した書籍を読むことが困難な人を読書障害者と定義している。日本では長年、視覚障害者だけが読書に困難があるとされてきたが、他にも多くの読書障害者がいる。例えば下記の通りである。
○視覚障害者
 全盲の場合は点字、読み上げソフト等を利用して読書が可能となる。弱視の場合は文字を拡大して読書をしている。電子書籍であれば読み上げソフトの利用や文字の拡大が可能となるため、全盲も弱視者も読書が可能となる。
○学習障害者の1種である読字障害者(ディスレクシア)
2009年に著作権法が改正され、ディスレクシアと呼ばれる読み書きに困難のある学習障害者も著作権法上、権利制限規定の対象に加えられた。
○上肢障害者
マラケシュ条約は、寝たきりや上肢障害により本が持てなかったりページがめくれない人も受益者と定義している。上肢に障害があると、ページをめくったり本を持つということが出来ないために本を読むことが難しい。自動めくり機といった読書補助器具もあるが、機材が大きく場所を取ること、高価である等の理由で利用している人は少ない。こういった事情で読書を諦めている人も多い。電子書籍であればパソコン等での読書が可能になる。
○高齢者
加齢により視力や認知力が衰え、読書が困難になった高齢者も潜在的に相当数いると思われる。
○その他の障害者
マラケシュ条約では受益者と定義していないが、分かりやすい表現であれば理解できる知的障害者、文字は読めないものの手話であれば理解できる聴覚障害者、漢字を平仮名に直したりルビが振ってあれば理解できる外国人などのような読書困難者もいる。
 今後これらの読書障害者や読書困難者が本を買うにしても借りるにしても健常者と同じような読書環境を整えることはすべての国民の心豊かな生活を支えるとともに活力あふれる社会の実現に資すると言える。
3.本を「買う」という商業的な視点からの期待
 健常者が書店やネットで本を購入しているのと同じように、読書障害者もアクセシブルな電子書籍が買えるようになることを期待したい。本来、読書障害者が求める媒体は点字、音声、拡大文字というように障害の種類や程度によって様々である。しかし現時点では出版社が本の発売と同時にこれらの媒体を保障するのはほぼ不可能である。ただ近年普及してきた電子書籍がアクセシブルなものであれば、瞬時にほぼ正確に自動点訳したり、スクリーンリーダーで読み上げさせたり、見やすい字体や大きさに拡大することができる。つまりアクセシブルなデータがあれば、多くの読書障害者に時差なく文字・活字文化の恵沢を享受することができるのである。一部の出版社は本にテキスト引き換え券を添付し、本を購入した視覚障害者等にテキストデータを送付しているが、これも有効な配慮の一例である。このように当分の間、アクセシブルな電子書籍の提供が「One source, Multi Use」の鍵となり、出版における読書障害者への合理的な配慮と言える。
4.図書館から本を「借りる」という視点からの課題
(1)サピエ図書館
 全国視覚障害者情報提供施設協会が運営するインターネット上の電子図書館「サピエ図書館」の安定的な運営には、財政的な問題とサーバーの容量の限界という問題がある。現在サピエには約16万タイトルの点字図書データや約6万タイトルの録音図書データがアップされており、視覚障害者を中心に約1万3千名の読書を支えている。しかしこのサピエ図書館は2009年に国の補正予算で立ち上がった後、主に厚生労働省からの補助金と利用者からの寄付金で運営されており、厳しい財政状況が続いている。またアップされているデータのほとんどは点字図書館とボランティア団体で作成されたデータであり、公共図書館等で作成されたデータをアップすることはサーバーの容量からしても、人的な労力からしても難しい。
(2)国立国会図書館
 国立国会図書館の障害者サービスは着実に進展してきているが、更なるサービスの充実が期待される。2009年の著作権法改正により国会図書館も著作権者の許諾を得なくても視覚障害者等にアクセシブルな媒体を製作したり、自動公衆送信ができるようになった。そして2014年1月からは国会図書館が全国の公共図書館で製作された録音図書データと点字図書データを収集し、視覚障害者等に配信するという事業を始めた。同年6月からはサピエ図書館との連携も実現し、公共図書館で製作されたデータは国会図書館が収集し、サピエを通してダウンロードできるようになっている。(以下、「サピエ・NDLネット」とする。)
※NDL・・・National Diet Library(国立国会図書館)の略
 今後サピエ・NDLネットが所蔵するデータは数としても種類としても増えてくることが予想される。しかし、前述の通りサピエ図書館のサーバーには既にあまり余裕がない。一方国会図書館のサーバーの容量は膨大であるため、将来的にはすべてのアクセシブルなデータの倉庫としての役割が期待される。そしてその国会図書館のデータベースを核として広く全国からアクセシブルな図書データを収集し、一元的に管理することが期待される。
 またこのサピエ・NDLネットがどこからアクセシブルなデータを収集するかについても課題がある。現在は点字図書館と公共図書館に限定されているが、マラケシュ条約批准に伴う著作権法改正が行われた暁には大学図書館や地域のボランティア団体等からも広くアクセシブルなデータが収集されることが望まれる。
 サピエ・NDLネットが収集している図書は、点字図書データと録音図書データがほとんどだが、これからは弱視者や学習障害者、上肢障害者、障害学生にとって有用なテキストファイルやEPUBなどのアクセシブルな電子データも収集し、配信していくことが期待される。
 また国立国会図書館デジタルコレクション」は、国内最大規模の資料のデジタルデータを有している。そのほとんどは画像データであり、読書障害者にとっては残念ながらアクセシブルではない。そこで、これらのデータをテキスト化をはじめとするさまざまな方法でアクセシブルな形に整え、読書障害者がアクセスしやすい形でサピエ・NDLネットに提供することが望ましい。それによって、読書障害者が健常者と同じように膨大な資料にアクセス可能になることを希望する。
(3)学校図書館
 障害児の在籍する学校の図書室には、今後サピエ・NDLネットと確実につながり、必要に応じてバリアフリー図書がダウンロードできるという体制が求められる。例えば盲学校の図書室には点字図書や拡大図書、録音図書などが置かれているが、スペースには限界がある。そこでどの図書館でも容易にサピエ・NDLネットに接続し、更に多くの本が提供できるようになればよいが、現在サピエにつなぐには年間4万円の費用がかかる。よって現在盲学校でさえサピエに加入できていないところもある。インクルーシブ教育の進展に伴い特別支援学校に限らず、小・中・高校にも視覚障害児や学習障害児、上肢障害児が在籍するケースも増えてくるだろうが個々の図書館でアクセシブルな媒体を所蔵するのは現実的にはかなり難しい。そこで地域の学校でも全国で蓄積されたデータベースを利用できるようにすることが望まれるわけだが、やはり年間4万円が予算化できるか、疑問である。従ってすべての特別支援学校や読書障害児が在籍する学校には財政的な負担なく、サピエ・NDLネットにつなぎ、読書障害児がどの学校に在籍していようとも平等な読書環境が提供されることが望まれる。
(4)大学図書館・障害学生支援室
 大学における障害学生支援にもサピエ・NDLネットのメリットを最大限活用することが期待される。これまで障害のある大学生の教科書や教材の保障は各大学の障害学生支援室が中心になって進めてきた。2009年の著作権法改正により、「大学等の図書館及びこれに類する施設」が著作権者の許諾を得なくてもアクセシブルな媒体の製作ができるようになったが、障害学生支援室が「類する施設」に当たるかどうかの解釈が曖昧であったため、他大学でも有用かも知れないデータが一大学内に埋没してしまっていた。この解釈については2014年に文化庁から、障害学生支援室は大学図書館に類する施設であることが明確にされた。よってこれからはそれぞれの大学内で蓄積されたデータを全国的なサピエ・NDLネットにつなぎ、点から線、線から面へと教材保障の輪を拡げていくことが求められる。また、既に公表されている論文などの学術文献なども障害学生が容易に閲覧できるようにするなどのシステム構築も望まれる。
(5)公共図書館
 全国に約3200ある公共図書館には、地域の読書障害者や高齢者へのサービスを充実していってもらいたい。しかしサピエ・NDLネットへの接続状況を見ても、前述の学校図書館と同様、年会費の問題ですべての公共図書館が接続できているわけではない。また全国の公共図書館で障害者サービスを実施しているのは、国会図書館の調査によると66.2%ということである。先進的な図書館ではサピエ・NDLネットにつなぐだけでなく、デイジー図書を作成したり、図書を宅配したりしているところもあれば、3分の1の公共図書館は障害者サービスを全く実施していないということである。
 更に読書障害者の読書支援にも公共図書館の役割が期待される。例えばサピエ・NDLネットから図書データをダウンロードして読書するにしてもダウンロードの支援、パソコンやプレーヤーの操作方法の説明など、読書障害者にはさまざまなサポートが必要なわけだが、このような読書支援は1県1館の点字図書館だけではかなり難しい。よって、読書障害者へのアクセシブルな資料提供、読書サポートなどのサービスを法定化するなど、確実に障害者サービスを充実していくための促進策が必要である。また、近年公共図書館の予算は徐々に減らされてきているが、障害者・高齢者サービスを充実させていくための予算措置も課題である。
5.これからの読書障害者の読書を支える体制
 サピエ・NDLネットが視覚障害者のみならず学習障害者、上肢障害者などの読書障害者に広く認知され、利用されるようにするには国会図書館を核とし、学校図書館、大学図書館、公共図書館をネットワーク化し、全国津々浦々の読書障害者が身近なところでアクセシブルな媒体に触れられるような環境を整備していくことが求められる。その際、各図書館が負担しなければならない年会費を見直すと共に、安定的な財政基盤を構築する必要がある。また、これまで視覚障害者の読書を支えてきた視覚障害者情報提供施設(点字図書館)が、学習障害者や上肢障害者などにも利用できる施設であることを周知するためには名称、広報方法なども将来的に検討していかなければならない。また点字図書館にはこれまで蓄積してきた障害者サービスのノウハウを生かし、公共図書館の障害者サービスを支援するという役割も期待される。
 このように障害者の読書環境を総合的に改善していくには、関係する省庁が連携し、検討を進めていくことが望まれる。これまで述べてきた図書館の問題も視覚障害者情報提供施設(点字図書館)は厚生労働省、国会図書館は立法府、学校図書館、大学図書館、公共図書館は文部科学省の中の初等中等教育局、高等教育局、生涯学習政策局と所管が異なっている。マラケシュ条約は、アクセシブルなデータの国境を越えたやりとりを求めているわけだが、その窓口となる権限のある機関をどこにするか、どの図書館がどういう役割を担うかなども省庁をまたがって横断的に協議していかなければならない。また権限のある機関の業務効率を考えてもデータの一元管理が望ましいわけだが、さまざまなアクセシブルなデータの管理方法も検討すべき課題と言える。

声明文ここまで

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